八仙茶館日報

営業中!

瓢箪から駒

幾星霜か経て、のところを別のところに書こうとして、結局途中で寒くなったので、家のなかに入った。途端に警邏長の老人がライトを片手に徘徊してきて、そして座って彼は茶を飲んだ。

こんな夜中まで、警邏のお仕事も大変ですね。
いえ、務めですから。

そう言って自慢のライトを見つめる。
彼の持つライトは今ではLED。なぜなら彼は特別な存在だから。
そんな冗談も束の間、深海の世界へと彼はまた旅立つ。

ともにこの地球にいて、同じ国にいて、どれだけの距離が彼と私の間にできてしまったのか。
いつからそのような距離ができてしまったのか。

今となってはわかりようもない、そんなことを思う私の肥大した自我。

私をドライブする小さな世界の住人たちが、先日から静かになって、守ってくれる相手が居なければ、どうしたこともできず、言えず、そうしたら静かに座っていたり、横になっていたりしたらいいのに、なかなかそんなわけにもゆかず、別の駆動系によって動く私、自分の口から出る言葉はそんなことを言いたいわけではない、と低音域に隠し持った枕をチラつかせ、枕投げでもしましょうか、と誘われるがままに、午前2時の無法地帯を練り歩く。ねむねむ。

じゃあ、どんなことが言いたいんですか?
いえ、なにかこれといって特に言いたいわけではなくてですね。
それじゃあ黙っているといいですよ。
それがなかなか黙っているのも難しくて。

そんな彼に、その娘が提案する。

そうだ、それじゃあ枕投げでもしませんこと?

このやりとりを幾億回繰り返しただろうか。そうやって彼女は私の手をとって、そうして、その向こうにある続きの部屋に、サラリと足を進めながら…

いいえ、あなたとまくら投げをするのは初めてよ。

そういって彼女がふわりと身を翻したので、私は驚いて、

いや、そういうわけでは…

言葉にならずモゴモゴと。

彼女の投げた枕は窓を越え星降る夜へと飛んで行った。